優しい閃光

背番号2番、立ち位置は0番。わたしのいちばん

ジャメヴな逃避行

狭い檻の中、赤い囚人服を萌え袖にした男の子は不自由を指折り数える。お祭り、海、恋。牢獄の中にいては、夏を夏だと感じられるすべもない。ここにいたままはできないことを数えたのち、徐に見慣れた仕草で指を鳴らした。

「そうだ、脱獄しよう」

 

毎年必ず過ごしているはずなのに、迎えるたびにその暑さに新鮮に絶望する。暑いのも日焼けも汗をかくのもいやで、水分をとるのも下手で、日差しでスマホの画面が見えにくいし日傘で片手が塞がるのが煩わしい。なにより、ただ生きるだけにも普段よりエネルギーが必要になるかんじが嫌い。だからたとえどこかへ囚われていなくたってお祭りに積極的に行くことはないし、看守ふたりに監視されていなくとも海には滅多に行かない。けど、好きなアイドルには会いに行きたい。夏が大嫌いなわたしの大好きなアイドルは夏が大好きだった。

アリーナコンサートは今回で三度目。けど夏にやるのははじめて。季節ごとにはじめてという特別をつくれるから、四季があるって素晴らしい。今回の優斗くんのソロが前々からやりたいと教えてくれていた真夏の脱獄者だったのも、素晴らしい。2023年の夏、23歳の髙橋優斗くんの演る真夏の脱獄者。一見まっすぐでとっつきやすい、わかりやすいパッケージに思われがちなのかもしれないけど、その実、複雑な多色性をもって人の目にうつる優斗くんの持つ生来の掴みどころのなさが作り出す自由で勝手気ままな甘い逃避行は、差し伸べられた手を握って身を預けたくなる頼り甲斐もあれば、ときたま覗くかろやかな色っぽさと表裏一体のあどけなさに、捕まえたい、このかわいくてずるい男の子を逃したくないなんて焦燥にも近い気持ちすら掻き立てられる。優斗くんがやりたがっていた優斗くんの好きな曲で押し広げられる世界に入り込みながら、すごい!!ゆうぴーがわたしの大好きなゆうぴーをしてる!!の気持ちで心がひたひたになって利府で溺れた初日。いつもそうだけど、優斗くんが提供してくれる優斗くんにハズレがないの、幸せなことすぎて理解に時間がかかる。わたしは優斗くんがかわいいから好きだ。優斗くんがかわいいかぎり、ずっと優斗くんのことが好きだ。

ステージを飛び跳ねるように逃げては、おとなびた甲斐性の中に見せるこどもっぽい表情がひとの心をいたずらにくすぐる。その心地良いアンバランスさは優斗くんのいくつもある大きな魅力のひとつだし、人間としての自己表現とアイドルとしての自己理解のバランスの良さが現れているステージだなとも思った。たっぷりの自然なかわいげにひと匙の隙を浮かべてやさしく溶かして、ずっとそばに居てくれるようにも、次の瞬間に忽然と思い出に消えてしまうようにも感じられる佇まい。すこし熟れすぎた果物みたいな、しぼんでちいさくなったわたあめみたいな、甘ったるさが凝縮されたうたごえが発揮されていてかわいい。曲本編より長い前振りのコントも、終わりでこどもたちをころがして笑う無邪気さも、一つ一つがらしくてかわいい。優斗くんがかわいいままに大人になってくれていること、本当にうれしくて泣きそうになる。かわいさに温度があるのなら、優斗くんのかわいさは限りなく人肌に近いのだろう。かわいくて大好きなアイドルから、そんなふうに「最高の夏に背を向けないで。早く今を生きて」なんて歌われたらどうしようもなくなってしまう。かくして、今年の夏の主題が決定づけられた。

アリーナで見る夏の優斗くんは最高の一言に尽きた。夏が暑いのを毎年忘れてその熱気に驚くように、優斗くんの顔が好きすぎることに現場のたびに驚き感動するオタクという生き物。夏のアリーナははじめてだったけれど、もうひとつはじめてがあった。アリーナ規模でははじめてかつ、およそ4年ぶりになる単独現場での声出し。本人たちもオタクも待ち望んでいたその一手は開演前の演出からはじまっていた。こういうとき、優斗くんの声でホスピタリティの単語がよく再生される。彼らのことを好きなひとたちの声が大きな会場にこだまして、うれしそうな顔がうれしくて、何度も涙がこぼれおちそうになった。特に、はいじぇのコーレスタイムで膝に手をついて重心低くした姿勢で声を聞いてくれるシルエット、もっともっとと煽る手のひら、恒例のさんきゅ!を浴びたときに、長かった4年間を想ってぐっときた。さんきゅ!かわいい顔でかわいいお礼を言って間も無くローラーをかっ飛ばしてエネルギッシュに外周に飛び出していく優斗くんは、4年たっても変わらず声を力に変換できるひとだった。持ち前の胆力や訴求力はもちろん、なにかに背中を押されることができるのものひとつの才能だ。スーパーヒーローの素質。

ヒーローといえば、2曲目のアザサイ。動線にここまでときめくのってローラーならではなのかもしれないなってしみじみ感じた。特に、バクステからセンステに先にひとり向かうところ。強気に佇む優斗くんの足元をゼロに世界の中心がはじまってゆくようで、とにかくすごかった。バクステに背を向けたまま人差し指を突き立てる。ゆっくりと握りこめたその手の中には、目には見えない無数のエネルギーが存在していた。優斗くんのハンドサインは、暗澹たる道を照らす光にも、脱獄への魅惑の誘いにもなり得る。日々だれかのなにかになっているこの手のひらが、いつか絶対に望むものすべてを掴んでくれないと困るな、と祈りながら視線を向けた。そうやってわたしやだれかから奪った視線や感情をバクステに向けたまんまの背中にしょって、楽しんで強がって力に変えて、世界の中心を蹴っ飛ばして笑顔で車輪を回すのがヒーローのお仕事なのかもしれない。あと、4人が合流する流れをもって無敵の顔をしていた気がするのもよかった。しばしば自分自身以外から自信を見つけて内側に宿す瞬間をみるたび、生まれながらのヒーローではなく、ヒーローであろうとする男の子が好きなのだと実感する。ゆうぴーはアイドルでスーパーヒーローで人の子。そんな優斗くんのこと、ずっとずっと大切に好きでいたい。これまでそうしてきたように、これからもずっと。

これまでも、これからも。最高の今にあてられて過去と未来に思いを馳せる瞬間がいくつもあったコンサートだった。ぴかぴかでスライドショーされていたいくらなんでも大切すぎる写真たちを見て、すべては地続きなのを改めて実感させられた。いくら時が過ぎても本当に消えてなくなっちゃうものなんてなくて、実は、大切に好きでいたものは、自分が守り続けるかぎり消えなかったりするのかもしれない。この演出を思いついて実行まで持ってくるあたり、彼らも彼らなりにこれまでを大事にしてくれているのがわかってうれしかった。「根拠なんてどこにもないけど無条件に」って、すごくHiHi Jetsだ。この5人でいると自信が湧く、なんでかわかんないけどって、いつかの優斗くんも言っていたね。かつてのじぇっつは、これからも俺たちのことずーっと愛してくれますか!って、わたしたちが肯定でしか返せないのを逆手にとって聞いてくる小狡くてわがままで不安定で切ないくらいに愛おしいこどもたちだったけれど、今おこなわれる彼らからの問いかけとオタクの返事は、愛情はそのままに数年前とはすこし違う意味合いや空気感があって、待ち焦がれたレスポンスを終えて完全に幕が降りたあとのアリーナはやたら不思議な壮麗さがあった。

「おれの職業はおまえを幸せにすることだ!」←突然ですがこれは大好きが大暴れしてもがき苦しんだとある日のだぁどらセリフです。何を隠そうわたしの趣味は優斗くんで幸せになることなので……。幸せと幸せの重なり合いに、こんなアイドル一直線セリフが好きなアイドルの口から飛び出したことふくめて大好きが爆発した。優斗くんを好きになってからまあまあそれなりの年月が経ったけれど、どれだけ季節を過ごしても好きが重なり続けるばかりで、もう、以上も以降もいらないな、というところまできた。たとえ優斗くん以上がこの世界にいたとしても、優斗くん以上の思い出はほしくないかなーと思うからです。もしかすると、わたしはゆうぴーだけに巡り合うために、わざわざオタク気質にうまれて、いろんなもの、ひとを好きになって、そうした紆余曲折を経て自分にとってのど真ん中の最適解の大本命に出会えたのかもしれない。そんな馬鹿馬鹿しいことを本気で考えながら、先程のセリフのおかげでしばらくやぶけたままだった心臓を縫い付けるような心地でその日は君だけにを聴いた。そして優斗くんのやわらかで清冽な雰囲気はわたしを惑わせるから、馬鹿馬鹿しいけれどやっぱり絶対そうだよなー、というところに帰結した。そうだといいな。

イカの汁をオタクにかけて、オタクを煽る顔がうざくて、ひとりでレイを頭にぬーっとかぶって、オタクの声を聞いてうれしそうに笑うのがかわいい。ぜんぶかわいい。夏曲メドレーの担当もスイカ割りの発案も優斗くんらしい、夏が好きすぎる。まったく相容れないけどかわいい。「夜が明けるまで この手離さないで」そう歌って地球さえ簡単に抜け出して宇宙へと連れていってくれる今年の夏の優斗くんは、捕まってしまうのも納得なくらい罪作りにかわいかった。檻からするりと逃げ出す優斗くんを捕らえるみたいに、あるいはその手をとって一緒に逃げ出すみたいに、これからもかわいいひとを追っかけていろんな場所でかわいい!って叫びたいし、少しだけ大人になった愛おしい問いかけに、大きな声でハイハイ!って応えたいし、なにより、まずは城ホで優斗くんの顔がよすぎることに驚いて叫びたい。しおりを挟んだ夏の続きがいつかできたらうれしいね。

 

アリツアのぴかぴかで見たスライドショーが記憶に新しいうちにイレギュラー的に呼ばれた六本木の屋上は懐かしくも新鮮で、そんなEXシアターで見る夏の優斗くんはなんとも最高だった。

MCとして真価を発揮する姿も、長引かせて後輩につっこまれてたのも、そうやって後輩に強くこられるとうれしそうなのも、シャボン玉まみれにされてやっぱりうれしそうなのも、PAISENとして百点満点にぜんぶかわいい。ときには声を枯らして何百回何千回と客席を煽ってきた箱で堂々と盛り上げる姿はかっこよくて誇らしかった。少し話題は逸れるけど、じぇっつがバックをつける理由がわたしは好きだ。自分たちがどこに属するチームであるのか、どうあるべきかを胸に刻んでいるひとたちの高潔さ。その誇りはどんなときでも誰にも穢されないと強く信じている。

サマキンで甘い呂律がセリフを言っていたのが感慨深くてすごい景色だったように、環境はもちろん公演中もいろんな懐かしいのトリガーが散りばめられていて、けど今の優斗くんに必死で思い出に浸る暇もないのが実際のところだった。ただひとつだけ公演中に鮮明に思い出したのが、「この夏の青春をつめこんでください!」の言葉。この箱にはぜんぶがある。はじめて優斗くんを見た場所。嫌いな季節を特別に変心させられた年。きっと青春って振り返って指でなぞるまでがワンセットなんだと思う。優斗くんとの青春がどこまでも続いたらいいのに、と思いを寄せながら、大切がぎっしり詰まった箱で優斗くんと一緒にこどもたちを見た。

 

ドームで見る夏の優斗くんもまた最高だった。大勢のなかで仕事人になる優斗くんの覚悟と自覚の表情には、普段のかわいさをこねまわすような好きよりかは、ぴりっといくばくかの緊張の走る好きをおぼえるのでついついこちらの背筋も伸びがちになる。わたしがしゃんと姿勢を正して覗くまるい視界にとどまらず、まるいドームのただしく中心で場をぶんまわして、聞いて、伝えて、管理してと立ち回っていた振る舞いはとても立派で、 きっかけもふくめ、こうあるためにたくさん転びながらもひたむきに走ってきた姿をたとえ全体のほんの一部だとしてもたしかに見てきたからこそ毅然とした仕事ぶりがひとしお心に沁みる。自己実現を他人のロマンにしてしまえるのも職業アイドルゆえの恐ろしさであり、優斗くんの魅力の一翼。

5人でいるときの伸び伸びとした進行(たまの放棄までふくめ)も、EXシアターでこども公演MCを先導するのも、ドームで200人ぶん回すのも好きなのにそこで号令までかけるもんだからたまらず駆け出す好きに追いつけなくなる。ただそこにいてくれるだけでもじゅうぶんなくらい好きなひとがそこにいてくれる以上の振る舞いをしてくれるありがたさと背番号2番のユニフォームを、今一度噛み締めてふかくふかく味わった合同公演だった。あとドームでも顔がかわいかった。

 

8月が終わっても夏はもう少し続いた。前月とは変わって背番号は8181。横浜スタジアムで見る夏の優斗くんはそりゃあもう最高だった。

横浜スタジアムでのセレモニアルピッチは二度目。雨で中止になった試合のリベンジで、横浜をこよなく愛する優斗くんがもう一度機会を与えてもらえるくらいには求められていることがわかって飛び上がるくらいうれしかった。横浜について、横浜DeNAベイスターズについて語る優斗くんが好きなのは、ふんふんと意気揚々に語る姿がかわいいのもあるけれど、たくさんの人間に愛と夢を提供するそのひと自身が愛も夢もたくさん抱いている様に感動するからというのが大きい。さっき、自己実現を他人のロマンに、と書いたけれど、優斗くんのひとを夢へ巻き込む力はこのへんも起因していると思う。

当日、まず黒髪前髪ありに倒れる。再三再四になるが、わたしは夏が暑いことをいつも忘れるし、前髪がないことに慣れると前髪の破壊力も忘れます。そしてみんなのアイドルゆうぴ♡でひとしきりオタクを吠えさせたあと、使命のもとにハマスタのマウンドで愛を語る魂のおしゃべり。わたしは優斗くんが強く美しい生き物なことをとうに知っている。知っていてなお、毎回そのとろけそうな輪郭と鮮烈な輝きにはじめましてみたいにくらくらくるし、流れ込んでくる言葉の怒涛の精神干渉とときめきに気圧されて白旗を上げて、迷いなんてどこにもいなくなる。必須のアイテムボールとマイク。やわらかく気高く育った、大好きなおしゃべり。

話はアリツアに戻って、仙台初日の挨拶。優斗くんが話しながら心臓あたりを手でぎゅっと握り込んでいて、すごい、今このひと、そこでおしゃべりしてるんだ。ってはっとした。才覚溢れる脳でのおしゃべりももちろん惚れ惚れするけれど、心臓でのおしゃべりは感情がおおめにのっていてそれだけにどきりとさせられることも多い。今回の挨拶の尺は恒例化していたボリューム感よりずいぶんとぎゅっとコンパクトにしたようだったけど、だからこそ一言一言が粒立ってきこえた。それから挨拶で印象的だったのがもうひとつあって、有明での挨拶で死生観に触れて会場の温度と湿度がきもちじわっとあがったとき、メンバーが肯定も否定もなく、ただ明るくからっと言葉を差し込んでいた光景にグループという存在のおおきさを感じたこと。HiHi Jetsの、ひとの感情に手垢をつけずフラットにやり過ごせるところがいい。そのひとのさみしさも怒りもよろこびもそのひとのもの。わたしにとっての夏。彼にとっての夏。忌々しく愛おしい季節。オタクが知れることなんて本当に一部で、見えないところどころか優斗くんがくれるおしゃべりからすら我々が真意や真実を完璧に汲み取るなんてできなくて、そしてそんなことはきっとわかっていてなお優斗くんはマイクを握る。どんなときでも大義と美学を持っておしゃべりをする。なんと健気で強かなひとだろうか。

「みなさんが胸を張ってぼくたちの話をできる世界を、ぼくたちが作っていきます」これもまた大好きな優斗くんのおしゃべりのうちのひとつ、五騎当千での挨拶の一節。生まれ育った大好きな情景にいつもの赤れんがカップルを差し込んで、横浜とベイスターズへの想いを語る、声援が力になることを知っているひと。優斗くんが優斗くんでいてくれる限り、わたしはなにひとつ恥じることも臆することもない。感謝したいことこそいっぱいあるけど。狙いからすこし逸れた軌道にあわてる表情も愛おしくて、みかん氷がおいしくて、詳しくないなりに野球がたのしくて、屋外の茹だるような暑さも見逃して許した。試合はめでたくベイスターズが勝利して、チームを祝福する青い光がハマスタを囲んでいた。それを見ながら、港があり、穏やかな風が流れ、そして赤れんがにはカップルが集う、優斗くんが愛するそんな横浜が好きだなと、夏の終わりにこっそり心臓らへんを握りしめた。

 

最高の夏に背を向けないで。早く今を生きて。自担がそう歌った日から、大嫌いな夏はずっと最高の夏だった。人生をこなしながら優斗くんに会いにいくだけの夏が前年までとなにが違うんだといわれると痛いところだけど、夏嫌いの人間が、今年も最高の夏だった!って笑顔で宣言できるんだから、わたしの脱獄も成功としていいんじゃないだろうか。お祭りにも海にも行かない。けど目的を広義の恋に定めて社会を抜け出す。優斗くんに出会った年から今までずっと、わたしにとっての夏とはそんな季節だ。いつかこの数ヶ月もあのスライドショーの一枚になるのかもしれないけど、それでいい。大切にする限り大切は消えないし、毎年懲りずに暑さに驚くように、大好きなアイドルを前に何度だってはじめてのような身を焦がすときめきを感じられる。そしてそのたび夏を許して見逃して、また次の夏が来る。

今年の夏も優斗くんが大好きだった。あ、そういえば恋祭りを歌ってたし、夜のハマスタで見た青い景色は海みたいだった。お祭り、海、恋。何気に全部できたってことでいいかもしれない。