優しい閃光

背番号2番、立ち位置は0番。わたしのいちばん

残量

少し前に、友人からブルートゥースイヤホンを貰った。その時ちょうどイヤホンが欲しかったのと、わたしの好みを見越した粋な選択がそれはそれは嬉しくて、大袈裟だと笑われるくらいに喜んだ。

 

出先だと言うのに充電がほとほとなく、最後まで聴けるだろうかと案じながら道のりの長い電車に腰を据えてブルートゥースを接続した。隣に座った女性は疲れた様相でこっそりと甘味を食べていて、目の前の学生数名は控えめな声でおそらく部活動かなにかの話をしていた。そんな土曜日の21時05分。耳にはいつもの軽快な音楽が流れる。

上京し、都内の学生としてそれなり平凡に生きている自分の土曜21時は、バイトのシフトが入っているか友人や知り合いと会っていない限りは基本的にひとりの時間になる。しかしわたしには、約一時間の特別な居場所があった。そこは大好きな男の子と、その隣の大先輩 兼 彼の相棒さんが織り成すかわいくて愉快な優しい空間だ。

 

「ラジオをつければひとりじゃないよ。けんちゃんと一緒に、待ってるからね」

 

終わりが来ることは予想していた。分かっていた。けれど、その上でいつも通りの楽しくてかわいいふたりの会話が愛しくて、同時にそれを成立させられるようになった優斗くんが誇らしかったし、そしてそれは他でもない安井さんがいてこそだった。相変わらず優斗くんは破茶滅茶、奇想天外、かわいいけどもはやちょっと怖い域なくらいの、へんてこな発言をぽこぽこと放つ。これぞ「らじらー」の優斗くん。大好きな優斗くん。電車に揺られながら、彼らの三年間の上に成り立ったいつも通りを甘受して、いつも通りゆうぴーかわいいかわいいして、たまにイヤホンの充電を気にした。隣に座っていた人はいつのまにか変わっていた。

結局、放送が終わる十分前ほどにぶつっと充電が切れてしまった。惜しかった、と泣く泣くイヤホンをしまって、公式ツイッターを監視することにして、更新、更新、更新……。指が止まる。ああ、そうか。

この文を読む彼らの声を聞かなくて良かったとさえ思った。

この事態は予測できていたことで、それにジャニーズJr.のラジオで任期三年でもどれだけ凄いかってこととか。分かってる。分かってるんだけど。でも、「三年続けられたことが奇跡なので」そうかなあ。三年も続けられたのは、きみが、頑張ったからじゃないのか。安井さんが、周りの大人が、優斗くん自身がまっすぐらじらーに向き合ってきたからじゃないのか。対面でなく横並び、ふしぎなブースに入所一年足らずでえーいとぶっこまれたおしゃべり好きの男の子が一歩一歩着実に進んできた三年間。奇跡って一体なんなんだろう。なんなんだろうね。

しばらく呆然としていたら最寄りに着いたからふらふらと電車を降りた。電車とホームの隙間をまたぐ瞬間にふと目に付いたのは、椅子の下に投げられた、乗車時に隣だった女性が置いていったのであろう空のお菓子のパッケージ。戻って拾うことが出来なくて、けれど何故か足早にそこを動くこともできず、しばらくドアの前で立ち尽くしていたらその境界線はほどなくして遮断されて、さっさと電車は去っていった。

ラジオをつければひとりじゃないよ。たくさんの笑顔のもとを用意して、土曜日の21時頃待っててくれたふたりはもうすぐどこかへいってしまう。ひとりのわたしはどこに帰ればいいだろう。そんなことを思いながらエスカレーターでなく階段で改札までのろのろと向かった。

 

充電の切れた淡いピンク色のイヤホンに音は流れないし、四月、桜の咲く頃にふたりの声は流れない。かと言って奇跡はもうそこにないし、彼……彼らの色をしたイヤホンを充電する気にも、今はまだなれない。